『旅に出ます。探さないで下さい』
こんな書置きを残してAiolite店長が失踪したのは、
北風の吹きすさぶ寒い夜のことだった……。
そんなわけで!
Esteban、年齢80歳、職業代行店長、趣味は盆栽とモンバット虐殺!
今日一日、マスターの代わりに宵闇亭を仕切っちゃうぞい☆夜露死苦皆の衆!
心なしか今は亡き御隠居に似てるような気がするが、そのへんは深く考えん方が身の為じゃ!!
まずはウェイトレスの小娘に、軽く忠誠心というものを叩き込んでいたところへ、早速今日第一号のお客様が登場しおった。
のっけからヘビィなお客さんじゃ……。
このエリィ嬢、どうやらリアル都合でUOを引退せねばいかんらしい。飽きたとかいう理由なら復帰する見込みもあるが、リアル都合ではそうもいかんじゃろう……悲しいことじゃ。
どうやら副業でPKもしておったようで、引退する前に宵闇亭に来てみたかったとか。
ありがたいのう。なのに店長がニセモノで本当にすまんのう……。
「え、ニセモノなんですか? 髪型一緒だから分からなかったw」
ちょっと目が悪いようじゃ。
なんでも財産を処分して20000K溜まったとか、家が競売中で18000Kまで行っているとか、まだAFが2個残っておるとか、貧乏人には縁のないお話に、ほんのりと殺意が芽生えたところへ、狙い済ましたように先週の通り魔が走りこんできおった。
が、ワシの必殺のジジィマグナムが炸裂する前に、エリィ嬢の愛馬が一蹴りで始末してしもうた。さすが副業PK、KILL命令のキレが違うわい。
ところがこの通り魔め、すごすご帰るどころか、あつかましくカウンターに入って蘇生をおねだりしおる。
たわけが!
ワシは店長のように慈悲深くも慈愛あまねくもないぞい。
通り魔の分際で甘ったれるな!
無辜の民草にいきなり斬りかかるような不届者に巻いてやる包帯なぞ、1センチたりとてないわい。
貴様のようなならず者は、そのままそこで野垂れて行くがええわ!
さて、その通り魔の死体も腐り果てて惨めな白骨を晒す頃、これまた可愛らしいお客さんが御来店じゃ。
見習いテイマーのカタリナ嬢、噂のオッパイギルドAWCのニューフェイスにして、時々ここいらで残飯を漁っておるレイモドとかいう駄犬の後輩らしいのう。
実に初々しい娘さんじゃ。半年後くらいに会った時、ヘイブンでオッパイ占いを大声で歌ったり、全裸で古代竜にセクハラしに行くような子になっておらんことを、ジジィは心から祈っておるぞい。
ベテランテイマーのエリィ嬢が、調教について丁寧な説明をしておるのを一生懸命聞くカタリナ嬢。
心温まる光景じゃ。
ワシも若い頃は、出会った先輩のことを克明に覚えておるわい。今月を最後にブリタニアを去るエリィ嬢じゃが、カタリナ嬢は今日の日のことをきっと忘れんじゃろう……。
おっといかん、時間が……いやいや、警察から電話じゃ!なんでも行方不明だった店長が見つかったとか!こうしちゃおれん、帰らねば!
そんなわけで!
何事もなかったかのように僕帰還。Aioliteですよ、店長ですよ!
間違っても
変装ツールの解除時間を間違えてうっかり営業までに元に戻れなかったとかそんな理由ではなく、あの、ほら、ちょっと高速が込んでて……ごにょごにょ。
お客様のなんらかのリアクションを求めていたのに、お客様のほうも何事もなかったかのように雑談続行。案外マスターに毛が生えてようがハゲてようが、お客様にとってはただのカカシなのかも……いやいや、泣いてない俺は泣いてない。
まぁそれはさておき、
気がつけば一気に治安の悪化している宵闇亭。
出入り口に次々と張られるPKKホイホイ。目の前で見事なまでに次々とエモノが掛かっていくのを見るのは、なかなか見応えのある光景です。
……ってあれ?
何故僕まで罠に。
うっかりホイホイにかかったところへ、すかさずPK様のEV炸裂で、踊る間もなく軽やかに昇天。
ついでにお客様も宵闇号も昇天。
そういう貴女は何一人落ち延びてるんですか、この裏切り者!
思う存分虐殺の宴を繰り広げ、宵闇亭内をキャーキャー言わせた後、ようやく皆さん満足して内部に突入してくれました。
これ以上初々しいカタリナさんを、フェルッカの血の穢れに染まらせては大変と、急いでお帰りをお勧めしたんですが、僕らの労力も空しく……
「おやすみなさーい」
「また来てくださいね!」
「はーい^^」
「今度は優しく殺してもらえると良いですね……」
「ですねぇ」
などという微笑ましい会話の直後、通りすがりのPK氏にあっさりと撲殺されるカタリナさん。
お馬のミルキーちゃんも、いきなり軽くなった背中にビックリ顔です。
初心者に優しくない世界、フェルッカ。
さて、そんな一難去った宵闇亭。引退前に積もる話を、とエリィさん・ヌマークさんと話し込んでいるところへ、なにやら無視できない存在感の人物が……
キンニク=スグル
そ、その名前は!
貴方様は、もしかしてあの
国民的ヒーロー?!
目の色を変えてにじりよる僕らに、あくまで紳士的な態度を崩さないスグル王子。
わかりました、王子があくまで身分を隠されるというなら、僕らもこれ以上は追及しますまい!
けれどこれだけは譲れない。
MISSION : 王子に宵闇亭の牛丼を食べて頂く。 心を込めてドンブリに御飯を盛り……特製のタレでじっくり煮込んだ薄切りの牛肉とタマネギをかけ……ツユだくにし……そっと箸を添えて王子の前に差し出す僕。
王子が上品に箸を割り、ドンブリごと牛丼をかっこむ、
それは恍惚の一瞬。
マミィにぶたれつつも、イトーヨーカドーでキンケシをねだった幼少の僕よ。田舎者ゆえに
「吉野家の牛丼てどんな味なんだろう」と高校生まで思い続けた、思い出の中の僕よ。
すべては今、この瞬間のためにあったのだ!
王子、牛肉残してます。